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未来を変えた島の学校

【第1回】高校魅力化の取り組みを知っていますか?

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日本海に浮かぶ離島の学校、島根県立隠岐島前(どうぜん)高校。

廃校の危機に直面したのをきっかけに、約10年前から地域と協働して高校の魅力化に取り組んできました。
同校で始まった「高校魅力化」のムーブメントは、今では全国にまで広がっています。

教育の、地方の、そして日本の未来を変えるヒントが満載の取り組みについて、同校で学校経営補佐官を務める大野佳祐さんから5回シリーズで寄稿していただきます。

「未来を変えた島の学校」に込めた意味

島根県立隠岐島前高校は、隠岐諸島島前地域(西ノ島町、海士町、知夫村)に位置する地域唯一の高校です。多くの離島・中山間地域の学校がそうであるように、少子高齢化の波に抗えず、10年前には統廃合の危機に直面しました。あのまま何も手を打たずに未来をなりゆきに任せたならば、高校は間違いなく消滅していたと思います。地域唯一の高校がなくなれば、子どもたちは中学校卒業と同時に島を出なければなりません。島を出て下宿をするには金銭的負担も大きく、場合によっては家族全員で島を離れることも考えられます。若い島の担い手がいなくなれば、島を持続していくことはできません。

当時、「そういう状況にしてはならない」と立ち上がったのは、県教育委員会ではなく、地元三町村でした。島民の全面的な後押しを受けて、様々な取組に着手し、離島・中山間地域では異例の学級増を果たしました。プロジェクトに取り組みはじめてもう10年が経ちます。「未来を変えた」と言うと少しおおげさなのですが、少なくとも「未来に可能性をつないだ」とは言えるのではないかと思います(10年間の取組の詳細は「未来を変えた島の学校」という書籍にまとめられていますのでご一読ください)。

本土からフェリーで3時間あまり。隠岐島前高校のある海士町(あまちょう)は、移住者の多い島としても知られています

多くの学校が学級減に悩むなか、 どのように学級増を果たしたのか?

昨年の夏に島で開催された音楽イベントでは、会場設営や音響、出店などを高校生が一丸となってサポートしました

プロジェクトが立ち上がった当初は「高校を存続しよう」ということが目標でした。でも、存続を目指す学校に行きたいと思う中学生はいないし、行かせたいと思う親御さんもいませんよね。やっぱり「魅力的な学校に行きたい」というのが願いだと思います。そこでプロジェクトの名称を「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」としました。

子どもの数が減っていく中で学級増につながったのは、「島留学」の存在が大きかったと思います。島留学というのは、都市部で育った中学生に対して「今の環境を飛び出して、3年間を島で学びませんか?」というものです。今では全校生徒(160名)の約半数が島留学生で寮生活をしています。都市部や海外で育った生徒もいれば、人口数百人の隠岐よりも小さな島で育った生徒もいます。

島留学のもともとのコンセプトは、外から多様性を持ち込んで、島で生まれ育った子どもたちにより魅力的な環境を提供したいという地域の願いからスタートしています。島根県本土の高校に進学しても周辺出身の生徒たちとしか出会えませんが、島にいれば全国から来る生徒たちと切磋琢磨できます。今ではその多様性が高校の最大の魅力と言ってもいいと思います。

「島留学生」にとっての魅力は何か?

人によって様々です。都会にはない豊かな人のつながりの中で生活をしてみたいという生徒もいれば、人と違う進路を選択したかった、あるいは将来は地方創生に関わる仕事に就きたいなど、本当にここに来た理由は多様です。

地元の漁師さんに教わりながら、牡蠣についたゴミを取り除く手伝いをする生徒たち

ひとつ言えることは、「学校だけでなく学校の外にも魅力がある」と認識している生徒が多いということです。高校のある海士町は人口が2,300人しかいませんが、都会の学校に行くよりもはるかに多くの大人たちと関わる機会があります。道ですれ違えば挨拶をして話をする、漁師さんから「週末手伝いに来て」とお呼びが掛かる、視察に来た方々に自分たちの学びを自分たちの言葉で説明する、そんなふうに様々な形で「本気の大人たちと関わる機会がある」というのが大きな魅力になっているのではないでしょうか。

しかも、全校生徒数が少ないから「打席に立つ回数」も自然と多くなります。10と100だと100の方が大きいのですが、10分の1と100分の1だと10分の1の方が大きいですよね。つまり、一人ひとりの役割が大きいということです。役割が大きければ期待もされます。期待されることってやっぱり嬉しいことで、こうした豊かなつながりの中で、自分のペースで自立していくことができるというのは、大きな魅力ではないかと思います。

豊かな学びの土壌は、誰がつくっているのか?

先生方はもちろんですが、島留学生を支える「島親さん」や、地元三町村の住民で構成されている「魅力化推進協議会」、三町村長や議長、教育長・中学校長らで構成される「魅力化の会」など、様々な形でバックアップ体制が構築されています。

こうした多様なステークホルダーをつなぐのが「コーディネーター」です。本校には地域と学校をつなぐコーディネーターが職員室に5名配置されています。この5名の雇用も島根県教委ではなく、地元三町村が出資してつくった一般財団法人の雇用になっています(県教委からはコーディネーターを委嘱されています)。本校の特徴ある地域課題解決型の探究学習のプログラムも、先生方と多様な背景を持つコーディネーターが協働してつくっています。文部科学省の言う、「社会に開かれた教育過程」をすでに実現していると言っても過言ではありません。

また、今年からは現場だけでなく、学校経営も外部から専門家を招聘してチーム制にし、公立学校としては日本初の「学校経営補佐官」を複数配置しました。このように多様な方々に学校に関わってもらうことで、豊かな学びの土壌がつくられています。

コーディネーターと公立塾のスタッフたち。タテ・ヨコ・ナナメの連携の強さが島の強みです

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