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未来を変えた島の学校

【第4回】「志を果たしに」戻ってくる卒業生たち

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日本海に浮かぶ離島の学校、島根県立隠岐島前(どうぜん)高校。

廃校の危機に直面したのをきっかけに、約10年前から地域と協働して高校の魅力化に取り組んできました。
同校で始まった「高校魅力化」のムーブメントは、今では全国にまで広がっています。

教育の、地方の、そして日本の未来を変えるヒントが満載の取り組みについて、同校で学校経営補佐官を務める大野佳祐さんから5回シリーズで寄稿していただきます。

魅力化プロジェクトが地域に起こす変化とは何か?

隠岐島前高校が魅力化プロジェクトに取り組みはじめて10年が経ち、生徒だけでなく地域にも様々な変化が起こりはじめています。なかでも大きな変化として挙げられるのが、意志ある卒業生たちの還流です。

高校を卒業すると、島で就職する生徒を除いて全員が島を離れることになります。見送りのフェリーを送り出す際の合言葉は「いってらっしゃい」。そこには島の大人たちの「いつでも帰ってこいよ」という願いや期待が込められています。一方で、心のどこかでは全員が帰ってくることがないことをわかっているような気がします。それでも、可能であれば帰ってきてもらいたい、帰ってきてもらえる地域であり続けたい、そのためには今いる大人たちががんばらなければ、という本音や意地が垣間見える瞬間でもあります。

つい最近まで、都会に出た若者が故郷である地域に戻る選択は、多くの人からあまりポジティブに捉えられていなかったように思います。およそ100年前につくられた「故郷」にも「志を果たして、いつの日にか帰らん」という歌詞があり、地域は「都会で志を果たした者が帰る場所」という位置付けであったように思います。

フェリーでの見送り。毎年3月には、「いってらっしゃ〜い」「また帰ってくるね〜」の声が港に響き渡ります。

「志を果たしに」地域に戻り始める卒業生たち

隠岐島前高校の卒業式では、式典の最後にこの「故郷」が歌われます。私たちは3番の歌詞を少し変えて、「志を果たしに、いつの日にか帰らん」と歌います。いつか志を果たしに島に帰りたい。志を果たせる島であり続けたい。全員で歌う「故郷」には、お互いの約束が込められているように感じます。

この歌詞は島のビジョンになりつつありますが、10年経った今、それが実を結び始めています。西ノ島町役場に保育士として戻ってきた生徒は、高校時代から保育士になることを目標に、地元の保育園でボランティアをしていました。卒業後に島を離れ、広島の短期大学に入学した後も、事あるごとに島に帰り「いつか戻ってきます」と話していました。こんなに早く実現するとは思っていませんでしたが、結果的には新卒で戻り、立派な保育士として地域に貢献しています。同じく知夫村に畜産農家として帰ってきた生徒は、実家が畜産農家を営んでおり、高校時代にはスマートファームについて探究し、東京の難関私立大学にAO入試で合格しました。大学時代には様々な企業でのインターンシップなど島ではできない経験を通して知見を広げ、大学卒業後に知夫村に帰ってきました。

他にも、家業を継承するために帰ってきた者、役場に就職して高校魅力化の担当者として活躍する者、建築士になって建設会社に就職した者など、官民問わず様々な分野で意志を持った卒業生たちが活躍しはじめています。彼ら・彼女らの共通点は、地域に魅力や希望を感じて帰ってきていること、そして、「志を果たしに」帰ってきていることです。

知夫村に畜産農家として帰ってきた川本息生さん。自分で「問い」を立てられる力がついたと、高校時代を振り返ります。

可能性を感じない地域に若者は帰らない

ある卒業生は、雑誌の取材に「都会では、明日自分がいなくなっても誰も困らないと感じた。でも島であれば、『自分がいるから』という感覚がある」と答え、また別の卒業生は、「今後も隠岐諸島にはあり続けてほしいし、自分はそのプロセスに関わりたいと思った。上の世代とは違って、私たちの世代は幸せの定義を自分で決められる時代」と話してくれます。

先にも述べたように、全員が島に帰ってくるわけではありませんし、それが望ましいとも思いません。卒業生には自分らしく、自分自身を最大限に活かせる場で活躍してもらいたいと願っています。それでも、意志ある卒業生たちが共に未来をつくる仲間として島に帰ってきてくれることは、島の大人たちにとっては大きな励みとなっているはずです。魅力化プロジェクトに取り組み始めたときには想像でしかなかった世界が、いま目の前に広がろうとしていて、そのことを本当に誇らしく思います。

一方で、卒業生たちは冷静です。ある卒業生は、「大人の熱量が大事。若い人たちは可能性を感じないとわざわざ帰ってこない。これからは自分も誰かに熱量を伝えていく立場になる」と話してくれます。つまり、若者はどんな地域にでも無条件に帰るわけではないということです。

今後、隠岐島前高校では、全国に散らばる卒業生の組織化・ネットワーク化に取り組んでいこうと考えています。そういったつながりが新たな、そして大きな還流を生み出すことになると信じています。

島前高校の卒業生会である「家督会(あとどかい)」は今年はじめて東京での同窓会を実施しました。

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