お子さまの進路設計を考える、すべての保護者のみなさまへ
旺文社

Best wishs for my daughter and son.

interview

先輩たちの物語

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自分の「好き」を見つめての進路決定。子は大切だからこそ意思決定は任せよう。


「実は大学には行きたくなかったんです」こう語るのは、講談社で『ドラゴン桜』や『働きマン』、『宇宙兄弟』など数々のヒット作を担当し、現在はクリエイターエージェント会社「コルク」で代表を務める佐渡島庸平さん。灘高から東大へ進学後、編集者となった佐渡島さんですが、高校3年次には進学のことでご両親と揉めたそう。そこからどのような経緯を経て東大への進学を決めたのか、佐渡島さんが考える「親のありかた」とは? 3児の父でもある佐渡島さんに、お話を伺いました。

Profile
佐渡島 庸平
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株式会社コルク 代表

佐渡島 庸平さん

東京大学文学部卒業。2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティー形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテインメントのモデル構築を目指している。

https://corkagency.com/

01
interview

「大学には進学しない」から東大に? 中高時代を振り返って

──現役で灘高、東大へと進学されたと聞くと、一体どんなスーパーキッズだったんだろう…。と思ってしまうのですが、どんな小中時代を過ごされましたか?

佐渡島さん 小学生の頃から本を読むのは好きな子どもでした。親の勧めで中学受験をしたのですが、志望校には合格せず、「落ちちゃったな……」という感覚を抱いたまま、両親の転勤により南アフリカ共和国で中学生活を送りました。

南アフリカでの3年間は、現地の日本人学校でテニスやサッカーなどのスポーツに取り組みました。スポーツは楽しかったのですが、南アフリカは治安が悪かったので、日本のように放課後に友達と公園で遊ぶなどはできません。そのため、家で過ごす時間も多く、読書にかなりの時間を費やしました。友人はいましたが、どこか常に孤独感がつきまとっていたような中学時代です。その影響もあるかもしれませんが、遠藤周作と村上春樹にハマり作品を読み込みました。

遠藤周作と村上春樹がそれぞれ慶應・早稲田大卒なので、高校はそのどちらかを受験しようと考えていました。南アフリカでは参考書を気軽に買うこともできませんでしたし、今のようにインターネットが発展していたわけではありません。その環境下で、中学受験に失敗した僕が高校進学にトライすることを考えたら、最低限教科書はきちんと理解しなければと思い、丁寧に読み込みました。

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──教科書を丁寧に理解するように努め、結果的には灘高へ進学されたのですね。

佐渡島さん 正直、灘高受験は僕の人生の中で一番難しかったことかもしれません……。僕にとっては東大受験よりも難しかったです。遠藤周作が灘高出身だったことで、行ってみたいという興味を持ちました。

灘高でもテニスに励み、大学進学に向けての勉強は高校三年の夏までは全くの手つかずでした。大学進学自体にも消極的で、「大学には行かない」と言って両親と揉め、祖母まで出てくる事態になりました(笑)。

当時はすぐに大学受験をせずに1年間浪人して人生についてよく考えたいと思っていたので、僕は大学に通ってぷらぷらするほうが不誠実だと思っていたんですね。でも、祖母と母から「大学に行ってからぷらぷらすればいいから、お願いだから大学にはすぐ進学して」と懇願され、根負けしました。

今振り返ると、あのときに大学に行くことの意義をゼロベースで見つめ直せたのは意味があることだったと感じます。意思決定をするときは、極端なことを比較対象として考えたほうがいい。大学に行かずに働くかどうかを一回真剣に考えないと、大学に行く理由なんて見つけられないのではないでしょうか?

──大学自体に行きたくなかったところから、どのように東大受験を決めたのですか?

佐渡島さん どこの大学にも入りたくなかった状況で、でもどこかに進学しなければならないなら、せめて自分の好きな人がいるところを目指そうと思いました。先述のとおり、僕は村上春樹が好きだったのですが、村上春樹が翻訳を手がけた作品には必ず柴田元幸さんへの謝辞が記載されています。「日本文学を勉強していても村上春樹には会えないだろうけど、柴田さんのもとで英米文学を勉強していたらいつか村上春樹に会えるかもしれない!」そんな気持ちで柴田先生が教鞭をとっている東大を目指し始めました。


02
interview

受験生の親にできることとは? 子は大切だからこそ対等な存在だと認識する

──親から子への進学のアドバイスについてはどうお考えですか?

佐渡島さん 親が子どもに対して「いい人生を送って欲しい」と大学進学を勧める気持ちは理解できます。事実、大学4年間みっちりと柴田先生のもとで翻訳論や短編・中編についての理解を深めたことはそのまますぐに編集者の仕事に役立ちました。

あのときに大学進学を選んでいなかったら、新卒後講談社で編集者としてキャリアをスタートすることはできなかったでしょう。ただ一方で、僕自身が3児の父になった今考えるのは、子どもに対して「大学進学しなさい、〇〇大学に行きなさい」とは思わないということです。

──「口を出さないようにしよう」と思っても、つい子の将来を案じてしまう親心とどのように折り合いをつけているのですか?

佐渡島さん 僕は歴史が好きなんですが、歴史本を読んでいると、近代化以前は、子どもは「コミュニティ」のものだったとわかります。資本主義の広まりとともに、家族単位での消費が促され、「男性が外で働き女性が家で」と徐々に女性が単独で子育てをするようになっていきました。そうした流れの中で、子どもが限りなく母親の「もの」になっていき、「親が管理する」という感覚が広まりました。

けれど、親が子どもの進路にまで口を出すようになったのは、ここ70年の話で、近代資本主義以前にはなかった考え方です。それ以前も、王家や名家の子どもには後継者としての役割が期待されていましたが、庶民はそうしたものからは自由だったのです。

例えば、「農家の子は農家になっていたじゃないか」と思うかもしれませんが、それは世の中全体が今よりももっと不便で、職業や進路の選択肢がなかっただけです。子がどう生きるかは、子ども自身が自分で考えればいい。親が子どものいく道を知る必要なんてないんじゃないでしょうか?

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──そう聞くと、受験生の親にできることはなんなのだろうかと悩んでしまいます……。

佐渡島さん 例えば、友人との関係を思い浮かべてみてください。友人に「あなたのこの先の行き道を知らないと困るから、しっかり把握させてくれない?」とは思いませんよね。もしそう言われたら、多くの人が「なんで上からなんだ、うざいな…」と思うでしょう(笑)。それが対等な関係です。親子関係も本来はそうあるべきものだと思います。

誤解を招きやすいんですが、「放置」や「無関心」とは違います。「あなたが大事ではない」とのメッセージでは決してなく、「大切だからこそ意思決定は任せるよ」の考え方が根底にある。親子も対等な関係だと考えると、「子の行く末を把握していなきゃ」とは思わないのではないでしょうか?

自分が夢中になれるものがないと、人は人の人生に口を出したくなってしまう生き物です。だから僕自身も、自分が夢中になれることを、人生を通して探し続けています。


03
interview

自身が夢中になれるものを深めて能動的に生き続けよう

──佐渡島さんにとっての、「夢中になれるもの」はなんですか?

佐渡島さん 今やっている仕事そのものだと思います。僕は人生の早い時期に、文学が自分にとって面白いと感じることだと気づけました。文学とは単純に小説だけのことではなく、漫画や映画も含まれます。「心が動かされるような作品に出会いたい」と強く思う僕にとっては、編集という仕事は天職だと感じています。ですが、クリエイターもただ僕から「心動かされたいから作品を読ませてくれ」と言われても誰も読ませてくれないでしょう(笑)。

グラウンドを使ったあとに、使いっぱなしだと次に利用することができなくなってしまいますよね? だからグラウンドを使うときは整備までがセット。同じように、クリエイターにも収入をもたらさないと、クリエイターが作品をつくり続けることはできません。だからマネタイズの部分を仕事としてやっているだけで、漫画や小説を作家と一緒につくることは僕にとっては「仕事」ではなく、自身が夢中になれることです。

自分にとって、夢中になれるものを探すのは、年齢関係なく何歳からでもできることです。お子さんが小さいうちは、物理的にかかる手間が多い。けれど、お子さんが中学生、高校生になったら、親が細部まで手を焼かなくとも、子ども自身でできるようになる範囲は広がります。学費など、金銭的負担は大きくなってしまうのが痛いところですが……(笑)。保護者の方ご自身が、「自分が夢中になれるものを深める絶好のチャンスだ!」と思って自身の人生を楽しむことが親にできることなのかな? と思っています。

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──後記 お話を伺って

 現在、新人漫画家の育成に力を入れ、コルクインディーズやコルクラボ漫画専科・編集専科を立ち上げるなど、ご自身の「好き」を追求し続けている佐渡島さん。親になると、「この子の人生を幸せなものにしなければ」と思ってしまいますが、親が子の幸せを見つけてあげなければならないほど、子どもは弱い存在ではないのかもしれませんね。「子は親の所有物ではなく対等な存在」と思い続けるためにも、自身の人生を能動的に楽しんで生きる姿勢を忘れないようにしたいものです。

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